やすぎのやすらぎ人に出会う
出雲織のき白鳥の里 青戸秀則さん

今も伝統工芸の灯が消えることなく続いている安来。
自分らしいものづくりに取り組む人の思いは、あなたの心をやさしく照らします。


同じものは作らない、ここにしかない自由で独創的なイメージが降りてくるのをただ待つ

島根県安来市能義平野には、毎年冬から春にかけシベリアからコハクチョウが飛来します。平野の真ん中を走る全長6kmに及ぶ「白鳥ロード」
その道沿いに藁葺(かやぶき)屋根の趣のある建物、出雲織のき白鳥の里があります。青戸秀則さんは現在こちらで後継者の育成とご自身の出雲織の作品を創作されています。

出雲織は、青戸さんの母である初代柚美江さんが昭和34年に安来市内のご自宅で創業されました。出雲織は江戸時代から続く絣織を根底に置きながら、そこから独自の模様を展開しているところが大きな特徴です。
柚美江さんは、子供の頃に見た故郷の原風景の記憶の暖かな思い出を模様に表現されているそうです。伝統的な手織りの工程と技法を基調としながらも同時に独創的で自由で美しい模様が配置されています。

一番は藍染を大切にしています。織り糸にもこだわり、野生の繭の天蚕糸(てぐす)、木綿の糸、蓮の茎から生成させた藕糸(ぐうし)、手すき和紙で作られた紙布など多様な種類の糸が使用されるそうです。
「同じものは作らない ここにしかない自由で独創的なスタイル」というのが母柚美江さんが創業当時から最も大切にしていることで、その心は青戸さんにもしっかりと継承されているそうです。

出雲織の織物は名称部分に作者自身が筆を入れる。
藕糸と天蚕糸で織られた織物。繊細な緑色が美しい

青戸さんは4人兄弟の末っ子に生まれ、松江市の農業高校を卒業と同時に出雲織に入ります。元々子供の頃からご自宅で母柚美江さんの製作環境の元で過ごし手伝いをしていたこともあり、自然とその道に導かれていったそうです。高校生の時には「自分は、はた織りを将来生業(なりわい)にしていくのだろう」と漠然とイメージしていたそうです。将来の道を決めたその理由は「自分にとってそれが面白そうだったから。ただそれだけです」と単純明快に笑顔で語られます。

大切にしていることは第一は着心地のいいものを作ること。

そして次に大切なのが、自分の思いを込めたデザインを加えること。
伝統を重んじながら、織っていて楽しいものを作りたい、自由な遊び心が大切である。こうでなけれないけないという決まったルールは特になく、素材も特別しばらない、新しい素材に出会えたら、それはそれで取り入れて行きたい。
第一に大切なことは着心地がいいものであり、そして次にくるのが楽しくなるような遊び心のあるデザインであると言われます。

若い頃は何でもまずは伝統的な模様を参考に無我夢中でデザインしていたそうです。そんな青戸さんも30代の半ば頃、自分に納得できるデザインができなくなった時期があったそうです。これは誰かの模倣ではないかと感じてしまい、やっていて面白くないと感じてしまうようになったそうです。またご自身の創作活動と並行して施設の運営やお弟子さんの指導、藍染などで日々忙しくされていたのもあり、10年間は納得のいくデザインに集中できなくなってしまった時期があったそうです。

イメージが飛来する瞬間

青戸さんがどうやってそこから抜け出し、現在のデザインに至るヒントに出会ったのか、それはある日の出雲織の個展会場にあったそうです。

艶やかな佇まいのお着物がとても似合いそうな素敵な女性がお一人で来られたそうです。その方とお会いした瞬間、突然フッと心の中に「この人の着物を作ってみたい」という感情が湧き起こったそうです。「この人に似合う着物をデザインしてみたい」というシンプルな思いだったそうです。それまでの伝統的な模様を参考に創作に向き合ってきたところから、着て欲しいと思える対象を強くイメージすることで意識が変わったそうです。

青戸さんはこう続けます
「今まで何十年も見てきた伝統的な数あまたの絣の模様が、その瞬間、その女性に合わせて、自分の頭の中で整理され、次々と飛び出してくるように模様が配置され、デザインが舞い降りてくるように出来上がっていった」と。

続けてきて良かったと思う嬉しい瞬間

青戸さんが一番嬉しい瞬間はご自身が手掛けられたお着物を着て、再び自分の元にお客様が来られた時、自身のお着物を通じて、艶やかな女性らしさをその方から感じ取れた瞬間だそうです。

出雲織は江戸時代から続く絣の伝統を根底にしっかりと置いた島根県安来市で生まれた織物です。初代柚美江さんから始まり、今では青戸さんの息子さんも加わり親子3代で営まれています。青戸さんの元を卒業された門下生の数は100人以上を越え、安来から全国にたくさんの方々が羽ばたいています。これからどんな織物が安来で生まれていくのかまだまだ楽しみは尽きません。

DATA

出雲織 のき白鳥の里

島根県安来市沢町317-1
TEL / 0854-22-6777
営業時間 / 10:00~17:00
定休日 / 日曜祝日
アクセス / 安来駅より車で20分
駐車場 / あり
HP / http://www.yasugi-kankou.com/index.php?view=5293